キラキラ大島雑記帳

インディーズレーベル『キラキラレコード』代表、大島栄二の日記です

メール

 昨日のことだ。僕はYouTubeにてとあるバンドの音源を聴いた。その感想を伝えようとメールを送った。そしてよければデモ音源を送ってくれないかというメッセージを添えた。

 YouTubeで聴いたのならなぜ敢えてまたデモ音源を送る必要があるのか。送らなくてもいいじゃないか。そういう人もいるだろう。しかし、ネット上に公開している音源というのはレーベルに聴かせたくてそこにあるものばかりではない。身内で楽しむだけということもあるだろうし、すでに新たなレーベルなど不要な状況で頑張っているバンドもいるのだ。そういうものを勝手に聴き、ずかずかと土足で踏み込んでいくようにして「君たちは云々」などと言うのは不遜というものだ。レーベルはそんなにエラい立場の存在ではない。だから公開音源を聴いてそこそこ良ければ「聴きましたよ。よかったらデモを送ってください」という流れになる。そこで送ってくれたバンドのみ、その次の正式なステップとしての試聴をさせていただくということなのである。正式なステップではもっと真剣に聴く。いや公開の音源だって常に真剣に聴いているのだが、正式な試聴ではそのバンドに足りないところなども指摘する。それがウザイと思われようと、貴重な話を聞かせてもらったと思われようと、そんなことは関係ない。わざわざデモを送ってくれた時点で、「まともに聴いてくれ」というバンド側の意思表示なのだ。将来一緒に仕事をすることになる可能性も多少高まっている。褒めてばかりもいられないし、それを望んでもいないだろうと思う。

 というわけで、デモを送って欲しいと伝えたのだが、そのとあるバンドからはこういう返事メールが届いた。「自分たちは直接お会いした人としか一緒にやっていけない。メールで言われても決められるようなことではない」と。それはその人たちの感覚なのでとやかく言うつもりは無い。そもそも返事もなしにデモを送らないで無視というケースだって少なくないのだから、そうやって意思表示をしてくれただけでありがたい。でも、それでいいのか。そのバンドの音は本当にカッコ良かったのだ。彼らからのメールは続く。「よければライブをまず観に来てもらえませんか」と。だが具体的な日程や会場名は記載されていない。

 ライブを観にいくこと自体はやぶさかではない。契約していないバンドのライブでも、機会があるなら行くこと自体は問題ない。ただ、日程が合わない場合も多い。優先すべきは契約しているバンドのライブだ。次に正式にデモを聴いて契約に向けて具体的な話を進めているバンドのライブ、最後にデモさえ聴いていないバンドのライブということになる。それは観に行ければ行くけれど、前日に別の予定が入ればキャンセルせざるを得ないものになる。そういう状態では、行ければ行くけれど約束は出来ないということにならざるを得ない。もし仮にそういうライブをすべて観に行っていたとしたら、他の業務が疎かになる。他の業務とは契約をしているバンドの仕事だ。それは本末転倒というものだろう。なぜなら、毎日デモ試聴の前のバンドのライブを観に行きまくって、その結果「直接会ってビビッと来た」から契約をしてリリースをしたとしても、そのバンドがリリースした後はそのリリース関連の仕事が疎かになる。なぜなら、デモさえ聴いていないバンドのライブを観るのに忙しいからだ。それではいけない。だから一線を引く。そのことを丁寧に説明して、僕はメールの返事を書いた。

 数時間後、彼らから返事がやってきた。僕の返事メールを読んで感動したと。誠実さを感じ取ったと。直接話をしてみたい気になったと。でもメールのやり取りで進めて行くことは自分の中で納得しきれないものが残ると。だから今回のデモの話はお断りさせていただくと。

 まあそれも彼らの考え方感じ方なので否定はしない。だが僕は思うのだ。なんだって最初はメールだったり電話だろう。もちろん営業根性丸出しのメールや電話もたくさんある。僕からのメールがそういう風に映っていることもあるだろう。だが、その中から何かを取捨選択して、自分にとって意味のある出会いをつかんでいかなければ、永遠に何かが起こったりはしない。すべての問いかけに全部対応するのも軽々しすぎるが、すべての問いかけに「メールだから」という理由だけで拒絶するのは怠慢である。怠慢という言い方はキツいだろうか。ではナイーブ過ぎである。

 今の世の中、メールでの連絡というのはそれほど特殊で不躾なものではないと個人的には思っている。それをすべて否定していたら、新しい出会いなどは難しくなる。結活と同じで、お見合いは嫌とすべて拒否するならばそれもいいだろう。では自由恋愛の出会いを求めて積極的に動いているのだろうか。それもしていない人も多い。だから未婚の人はどんどん増える。もちろん主義として独身を貫くのはいい。だが結婚はしたいが相手がいないとボヤいているのは、やはり怠慢の誹りを免れないのではないだろうか。

 デモを試聴する。それはその後に一緒に仕事をすることを前提としたものだ。仕事をはじめると、最初はそんなに良い話が舞い込むこともない。で、飛び込んでくるのは微妙な話がほとんどだ。夢のような提案なら何の迷いもなく乗ればいい。だが微妙な話にはそんなに気乗りもしないだろう。それでも、乗らなきゃいけないのだ。怪しげかどうかの判断はレーベルの方で出来る。怪しくはないけれど、そんなに即効性のあるメリットはない。だがそういう微妙な話に乗り続けて小さな成果を出し続けることで、知らない間に知名度も上がり、少しずつ条件のいい話も舞い込むようになってくる。だとしたら、その最初の微妙で利の薄い話を受けてもらわなければならない。そういう時、最初の「デモを送る」ことに考え込んでしまうバンドだと、おそらく微妙な話にも考え込んでしまうだろう。そういうところもデモの段階で見ることが出来るのならば、という気持ちを持っている。だから、件のバンドがいくらサウンド的にカッコ良くとも、デモの段階で躊躇するようでは、将来的に一緒に仕事をするのは難しいだろうと思う。

 もちろん、そういうバンドがいてもいいのだ。そして彼らがものすごく素晴らしい才能にあふれていて、デモなんて送らずとも数多の話が舞い込んで売れていくということだってゼロではない訳で、それに賭けるのも悪くない。で、凡百な才能で、積極的に出ていけば多少はモノになっただろうけれども、消極的故に芽が出なかったとしても、それはそれなりに楽しい音楽活動は待っているだろうから、それも悪くない。あるいは彼らが実は冷静に分析をしていて、キラキラレコードの話だから「直接お会いした人でなければ」という言葉で濁しながらやんわりと断っただけなのだとしたら、それもそれでいいだろう。そうして冷静な分析と判断で別のもっと可能性を秘めた話にノっていけばいいだけのことだ。僕は彼らのことを批判するつもりはまったく無く、それなりにカッコいいのも事実なので、なんとかモノになっていってもらいたいと心から思っている。ただ、僕が自分のレーベルでやっている仕事のルールというか、方法論の中ではやはり一緒にやるのは難しいだろうと思うし、だからデモを送ってもらえないことは残念ではあるけれども、それ以上の深追いは自分の首を絞めると思っているのである。